昔と今の米流通の変遷を見てみましょう。いま「ヤミ米」はありません。
「お米ってすべて国が買い上げているんですよね。それ以外を『ヤミ米』って言いますよね」
今でも多くの方が抱いている「誤解」の一つです。しかしそれはもう20年以上昔の話です。
かつて米業界は、戦時中に出来た「食糧管理制度」のもと「がちがち」の規制産業でした。その規制外で売買されるお米を「ヤミ米」と呼んでいたのです。
流通の末端にいる米屋は、戦時中は国の出先機関のような立場でお米を販売…と言いますか「配給」していました。
小池精米店は昭和5年(1930年)創業。戦時中は半分公務員のような立場であったため祖父は徴兵されなかったそうです。
そのころは米は米屋でしか買えませんでした。それこそ「米穀通帳」なるものを米屋に見せないとお米は買えなかったのです。
以後、長らく米販売は「許可制」で米屋の専売でした。まだ私が学生時代のころ。近所のセブンイレブンは米販売の免許がありませんでした。そこで小池精米店の「移動販売所」とし、弊社はセブンイレブンに「米を置かせてあげていた」のです。
そして…いまはどこからでも米は買えます。道の駅、ドラッグストア、スーパー、百貨店…。いま米販売は「届出制」になっています。その中で米屋でお米を買う人は「圧倒的に少数派」。ある調査では全世帯の4%に満たないのです。
私が以前出演したテレビでのこと。番組内の企画でお米食べ比べをしました。人気俳優がある品種を食べて一言「美味しい!」…。この瞬間、弊社のネット通販は爆上がり!…ではなく、なんとその品種が栽培されている県のHPにアクセスが集中していたのです。
米屋は「米のプロフェッショナル」としての立ち位置ですが、でも購入は米屋ではなくネットやスーパーで…。これが現在の消費動向なのです。
「昔は良かったなぁ…」。
年寄りの米屋が頻繁に使うセリフ。食糧管理制度の時代は大勢の人が米屋にやってきました。今は自分で工夫をしないと売れません。
でも消費者からすれば「いい時代」です。なぜなら多様な品種の中から、気に入ったお米を、自分がひいきにしている店や生産者から、買うことが出来るからです。
まあ普通の商材であれば当たり前のことなのですが…。
ちなみに私が米屋を継いだのは13年ほど前。最初から「いい時代」ではなかったのですが(笑)
でも規制が無いからこそ私はあちこちの産地よりこだわりのお米を仕入れることが出来るのです。それを媒介にしてお客様と交流が出来るのです。
そう考えると今の方が米屋にとっても圧倒的に「いい時代」なのです。
ライター:小池 理雄