米屋が産地に行って何するの?

「お米の買い付けに行くんですか?」
私が「年間30か所ほど産地に行く」と話すと、ほとんどの方がそのように問います。
しかしそれだけのために産地に行くことは、まずありません。
「お米を買う」だけであれば、今や電話やメールで済むからです。

小池精米店で仕入れている玄米の7割近くが生産者からの直接購入です。そこで重要なのが「生産者との信頼関係」。
米屋からは「毎年決まった量を確保しておいてね」、生産者からは「毎年これくらいは購入してね」、という期待をお互い持っています。

実は品質の良し悪しにかかわらず、この期待に応えることが生産者との信頼関係につながります。
「品質が悪くても買うって、どういうこと?」
そのように普通は考えるでしょう。
しかしおは農産物です。毎年同じ品質というのはあり得ません。それは農産物を扱う企業として、もともと抱えているリスク、と割り切っています。

ではなぜわざわざ産地に行くのでしょうか?
それは…お米ではなく「情報」を仕入れるためです。
私はお米を「味」だけでは評価しません。次の5つの切り口で評価しています。

①栽培環境と環境への配慮
栽培されている地域の様子、環境保全を意識しているかどうか。
②栽培の工夫
他人が聞いてアッと驚く工夫をしているか。
③品種(味と特徴)
美味しいかどうか。聞いた人が食べたくなるような特徴を持っているか。どのようなおかずに合うのか。
④生産者の熱意
消費者を感情移入させるだけの熱意があるかどうか。
⑤社会・地域貢献
稲作は地域社会を抜きにしては成り立たないことを理解しているか。

なんだがとっても理屈っぽいですよね。私もそう思います。
しかしお米の味はワインコーヒーのように違いがはっきりと分かるわけではありません。パンのように見た目からして明らかに違うわけでもありません。
そう、選ぶための判断材料が極端に少ない商品なのです。

米屋が持つ「お米選びの判断基準」はマニアックな視点ばかり。
消費者にとっては分かりにくいため必然的に「安いかな」「CMで見た」「新潟県が良いかも」くらいで判断せざるを得ないのです。
私は消費者にお米を選ぶための判断材料を提供して、さらには「選ぶ楽しみ」をお米に見出して欲しいのです。
そのための「ネタ探し」…それが産地に行く理由です。
消費者の皆さんが気軽に、肩の力を抜いてお米をパッと選ぶことが出来るように、私は産地を練り歩いているのです。

ライター:小池 理雄